子どもオンブズ・コラム 令和8年9月号 好きについて語り合う

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ページ番号1025623  更新日 令和8年9月24日 印刷 

好きについて語り合う

井口相談員
井口相談員 イラスト

 夏休みと同時に始まった映画「映画ちいかわ 人魚の島のひみつ」がヒットした影響か、最近、面談に来た子どもと「ちいかわ」について話す機会が続きました。
 会話は大抵の場合「映画観た?」から始まって、「あのメンバーだと誰推し?自分はちいかわ。すごく優しい子で大好き」と言ったように、子どもは自分が好きなキャラと推している理由について話してくれます。そうやって自分が好きなものについての話を聞いていると、まるで友達同士の会話に混ぜてもらったようで私はとてもうれしくなります。ただ、そんな会話を繰り返す中で、ふと、気になったことがありました。こうやって話してくれる理由って、どれだけ心の中の気持ちそのものに近いのでしょうか。

 子どもたちが教えてくれる「好きの理由」は、「仲間想いだから」「努力家だから」といった、聞いた側も「なるほどね」と納得できる内容が揃っています。ただ、それがあまりにも説得的で、もしかしたらキャラを好きになってから探した理由なのかもな、とも思うのです。
 「好き」や「特別」という気持ちは、大抵は一筋縄ではいきません。時には欠点の多い相手に惹かれたり、憎まれ役を好きになったり、「好き」は気を抜くと理屈を越えてきます。インターネットでよく使われる「沼る」「刺さる」という言葉もその典型例でしょう。これらは「なぜ好きなのか」を説明する言葉ではなく、本人でもどうしようもない感情の表れです。あれこれ説明できる要素が少ない分、他人からは共感されづらいものでもありますが、案外、そんな直感的なところが本当の「好き」に近いものかもなと思うのです。だとしたら、「好きな理由」とは、他人に話す時により説明しやすかったり、共感してもらいやすいように、後から付け足したもので、感じている気持ち全てを表したものとは少し違っているのかもしれません。

 とはいえ、「好き」の理由や好きな気持ちの話は、後付けの部分も多いからといって聞く意味がないとは思いません。私も、相談員として行う面談では、子どもから話を聞きながら「どこが好き?」「他に同じ気持ちになることはある?」といった質問を頻繁に行います。そこから話題が一層拡がったり、その子どもの価値観がよく表れていたりと、「好き」に関する話題は相手を知るための道しるべになるからです。
 ただ、時々、「どうしてそのキャラが好きなのか」という理由を子どもと話しているはずが、いつの間にか、「このキャラは優しいから好きなんだ」「自分は優しいタイプが好きだから、そのキャラが好きなんだ」と、わかりやすい理由付けが繰り返されていき、細かな気持ちがこぼれ落ちてしまったように感じることがあります。
 わかりやすい理由には、「その子どもを理解できた」と思わせる力がありますが、実は、それだけでは伝えきれない部分もまた多いのではないでしょうか。

 では、「理由」は一体どう捉えればいいのでしょう。
 一つ思いつくのは、例えば「優しいから好き」という理由に対して、「なるほど、あなたは優しい人が好きなんだね」と話題を完結させるよりは、「どんなところでそう感じたの?」「いつ気がついたの?」と相手がその気持ちを感じたエピソードに話をつなげることです。
 子どもがどういった場面の、どういうやり取りを見聞きして「優しいな」と感じたのか、その内容を聞かせてもらい、「優しい」の中に含まれた共感や憧れ、もしかしたらほんのちょっとの反発も感じられるようになれば、子どもの「好き」はよりリアルに受け取れるように思えます。たとえ、それが「一瞬で刺さった」という一見共感しづらい理由であっても、刺さった瞬間のエピソードまで聞かせてもらえば、もう少し見えるものは変わってくるはずです。

 今後も私は、誰かの「好き」に対して「どうして?」とたずね続けることでしょう。それは、誰かの「好き」の話は聞けるだけでも楽しいし、相手を知るための手段でもあるからです。
 ただ、その理由を聞いたときに、これが全てではないということも忘れないでいたいと思います。「好き」という気持ちには、説明しきれない余白があると思った方がいいのかもしれません。

 執筆 相談員 井口(ぐっちゃん)

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