子どもオンブズ・コラム 令和5年1月号 子どもたちへのバトン

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ページ番号1016903  更新日 令和5年2月7日 印刷 

子どもたちへのバトン

岸本相談員
岸本相談員 イラスト

 私の習慣の一つに朝、新聞を読むというのがある。全てをくまなく読むわけでないが、全紙面を一通り見ていく。そして気になる見出しがあると、じっくり読んでみる。少し前に読んで私が惹きつけられた見出しに、とても印象的だったものがある。「万引きした子に『ごめんな』」という記事(朝日新聞2022年9月4日)である。私はその言葉に心が揺さぶられた。

 この記事に登場する山川宗徳さんは、約16年間、沖縄で警察官をしていた。初めて万引きの現場に立ち会ったとき、男の子が肩をふるわせ、泣きじゃくっていた。男の子がとったのは、ミートボールだった。小学6年生、ひとり親世帯で母親は仕事でほとんど家におらず、おなかがすいていたという。山川さんは、その男の子の姿が幼いころの自分に重なり、涙をこらえきれなかったそうだ。山川さんの両親は、米軍基地の前でバーを経営していて不在がちで、生活に余裕がなかった。用意されたご飯では空腹が満たされず、近所の店で食事をわけてもらうこともあったという。小学5年のとき、山川さんはスーパーでミートボールに手が伸びた。ダメだとわかっていた。

 「もう二度とあんな思いをする子をつくってはいけない」と山川さんは2020年に警察官を辞め、子どもの支援に取り組むようになった。取り組んだのは、「みらいチケット」という仕組みである。 私はこの仕組みのことをまったく知らなかった。すぐにネットで調べた。お店の客は、自分の食事代に数百円をプラスすればチケットを買うことができ、買ったチケットはお店のボードに貼られる。お店に来た子どもはそのチケットを使うと無料で食べることができるという仕組みである。この「みらいチケット」は2018年に奈良県橿原市にある食堂「げんきカレー」で始まり、全国に広がっているそうだ。そして、沖縄の山川さんが取り組む「みらいチケット」の特色は、「タコライスラバーズ」という団体を結成し、子どもたちを貧困から救うためタコライスを提供している県内の飲食店で、子どもたちがいつでも自由に無料でタコライスを食べられるようにしていることだ。ホームページで、山川さんは「私の成長を支えてくれたのは地域の大人たちの優しさ。おなかだけでなく心も満たしてくれたと思う」と書いており、「タコライスラバーズ」は、子どもたちにひもじい思いをさせない、子どもたちに笑顔を届けることを目的にしている。「タコライスラバーズ」のキャラクターと歌を作り、キャラクターが歌って踊る楽しい動画まで制作している。さらに私が驚いたのは、沖縄県内250あまりある全小学校に紐付くみらいチケット協力店の確保をめざしていることである。2022年12月現在、スーパーを含め、チケットを設置する協力店が58店舗になり、ホームページで紹介されている。

 善意をつなぐ「みらいチケット」の仕組みは、私には思いもつかない発想だった。「みらいチケット」をより広く普及させようと、工夫を凝らし取り組んでいる人たちの発想力と行動力に熱いものが湧き上がってきた。子どもたちのために地域が当たり前のように助け合う。私は幼かった頃のことを思い出した。日が暮れて暗くなってもまだ誰も家に帰ってこなくて、私が家の前で一人で待っていると、近所の人が「おなか減ってない?」と聞いてくれた。しばらくすると別の人がまた同じように声をかけてくれた。休日、両親が留守にして私が一人になるからと、近所の人が私を預かってくれたりもした。ご飯を食べさせてくれ、宿題までみてくれ、ときには遊びにも連れて行ってくれたのだ。困っていたら助け合う、お互いさまという感じで恩を着せることもない。特に子どものことは、誰もが見守り大事にしてくれていたように思う。子ども同士でも、年上の子が年下の子の面倒をみるのは当たりまえだった。だから様々な年齢層の人と触れ合う機会も多く、いろんなことを教えてもらい、困り事や悩みなどを相談したこともあった。ふり返ってみれば「地域の子どもは地域が育てる」という意識が、ごく自然に育まれ受け継がれていたのだということに気づいた。

 「みらいチケット」を通して様々な人たちが、子どもたちを支えるため新たな地域のつながりをつくろうとしているのを知った。山川さんは「地域の大人から食を通じ愛情のバトンをつなぎ、受け取った子どもたちが、将来困っている人を助けられる大人になってほしい」と願っている。その言葉に、私はかつて自分が育った地域の優しさと温もりを思い出し、胸の奥がジーンと熱くなった。同時に人から人へつないでいくことの大切さと色々な支援の仕方があることに気づいた。私も私のできることで、子どもたちの心が満たされるよう、かつて受け取った優しさと温もりのバトンをつないでいきたいと思う。

  執筆 相談員 岸本 厚美

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