子どもオンブズ・コラム令和4年9月号 私が考えるスクールロイヤーとスクールソーシャルワークについて

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ページ番号1015867  更新日 令和4年9月8日 印刷 

私が考えるスクールロイヤーとスクールソーシャルワーク

三木オンブズパーソン
三木オンブズパーソンのイラスト

 スクールロイヤーとは、文部科学省によると、主として、いじめ、保護者とのトラブル対応について、学校、教育委員会が弁護士の支援を仰ぐものと構想されているようです。昨今では、我が子がいじめの被害に遭っている、なのに学校は何もしてくれない、といったことで保護者が学校、教育委員会と対立的になる、といったことも珍しいことではなくなっています。文部科学省はこういった場合を典型的に想定し、事態の収拾に弁護士の専門性が役立つと考えているようです。

 実際、2013(平成25)年度からスクールロイヤー制度を始めた大阪府教育委員会(現在は大阪府教育庁)の取組においても、これまで500件をはるかに超える相談実績のうちの大半が保護者対応に関する相談となっています。しかし、スクールロイヤーの役割はそれだけではありません。スクールロイヤーの本質は、学校、教育委員会の代理人(代弁者)的役割にあるのではなく、子ども、保護者と学校、教育委員会をつなぐ調整役として、子どもの最善の利益を軸としたアドバイスを行うことにあります。

 私は、現在、川西市子どもの人権オンブズパーソン(以下「オンブズ」といいます)のほかに、大阪府教育庁におけるスクールロイヤー事業にスーパーバイザーとして関わっていますが、私自身の教育現場への関わりは、滋賀県のスクールソーシャルワーク事業が最初でした。滋賀県のスクールソーシャルワーク事業は、約20年前に始まったものですが、制度発足当初から、実際に学校に通ってケース会議に参加し、教師、指導主事らとともに「この子は何に困っているのか」「この親はなぜこんなにも学校を攻撃するのか」といった分析と、その分析結果(当初はあくまで仮説ですが)に基づいて、「ならば、これからどのように接していくのか」という具体的な方法論を提案し、実践の中で修正していくといったことを行ってきました。学校、教育委員会にとっては、往々にして「困った子」「困った親」となりがちなところを「困っている子」「困っている親」という捉え直しをして、そこに支援的に介入するという福祉的視点を学校現場に落とし込もうとするのが、このスクールソーシャルワーク事業です。そして、前記のような「なぜ?」を掘り下げることをアセスメントと呼び、アセスメントに基づいて具体的な手だてを探ることをプランニングと呼んでいます。滋賀県におけるスクールソーシャルワーク事業は、最初は不登校から始まり、問題行動そして保護者対応へと比重を移していった流れがあります。しかし、これらいずれの事象に関しても、当事者である子ども、保護者は何かに困り、不適応を起こして、その結果として不登校、対教師・生徒間暴力などの問題行動、繰り返されるクレームなどへと発展していることが大半です。たとえば、子どもが暴力的になるのは周囲の大人からの影響にほかならず、虐待あるいは両親の間で起こっているDVの影響を受けているといったことが圧倒的に多いものです。また、不登校をはじめとする子どもの学校不適応の裏側には発達障害やいじめなどの問題が潜んでいることも珍しくありません。そして、保護者からの激しいクレームの裏には、実際に学校で生起している子どもを巡る事象に関してというよりも、保護者自身の問題すなわち虐待やDVあるいは過去のトラウマ(たとえば、自らが子ども時代に負ったいじめの被害体験と学校・教師の無関心といったこと)が深く関与しているといったことも珍しくありません。

 ですから、スクールロイヤーは、単に法的な思考枠組みを提示するだけでは足りません。私は、常々スクールロイヤーの思考枠組みは、法的思考(リーガルワーク)と福祉的思考(ソーシャルワーク)の「掛け算」である必要があると考えてきましたし、実際そうやってきました。たとえば、保護者が一日に何度も学校に電話をかけてくるようなケースでは、一方でどこからが違法な業務妨害となるのかといったような、いわゆる限界設定を意識しつつ、しかし単純に「毅然と」した態度で接するというところにとどまらずに、なぜこの保護者がそこまでこだわるのかを理解し、その理解を基に保護者そしてその背後にいる子どもとの関係改善を図っていかなければなりません。なぜなら、学校と子ども、保護者との関係は、消費社会における一時的な取引とは異なって継続的に続いていくものであり、「毅然と」切り離すだけでは解決に遠く及ばず、結局のところ、子どもの最善の利益には適わないことになってしまうからです。

 このように、スクールロイヤーは、従来的な弁護士像からは一定の隔たりがあり、アセスメントとプランニングという福祉的手法(ソーシャルワーク)も一般的な弁護士にとっては必ずしも馴染み深いものとはいえません。子どもの最善の利益を軸として、学校、教育委員会の代理人(代弁者)としてではなく、中立・公平な第三者的視点に立ったアドバイスをするという立場性も、伝統的な弁護士の職責からするとやや分かりにくい(有り体にいって「立ち位置が曖昧」との批判があり得る)ところです。また、このような第三者的な立場を維持しつつ、学校におけるさまざまな事象に関わる場合、たとえば当事者である子ども、保護者と直接面談する形をとることが可能か、あるいは最善か、それともあくまで学校、教育委員会からの伝聞情報により、学校、教育委員会に間接的なアドバイスを行うにとどめるのか、この辺りの制度設計についても選択の幅がかなりあり、未だ決まったものはない状況にあります。

 私は、前記のとおり、もともとはスクールソーシャルワーク事業におけるケース会議を通じて継続的・反復的に学校と関わり、ときには当事者である子どもの姿を直接確認し、保護者とも対話するなどしながら、その経験を基にスクールロイヤーとしての活動を始めました。また、今でもときには、子ども、保護者の代理人として(スクールロイヤーとしての立場と利益相反しない限りにおいて)の活動も継続する中で、学校、教育委員会と子ども、保護者双方の立場から偏りのない見方をすることに努めています(誤解をおそれずにいえば、学校、教育委員会に対するアセスメントさえ行っています)。今後、スクールロイヤー制度が広がりを見せるためには、こうした経験・素養を備えた弁護士をいかに養成していくかが大きな課題です。しかし、弁護士はどの分野においても、法理論だけでなくケースワーク的な思考枠組みをもって事案解決に臨んでおり、その延長線上でソーシャルワークの技術も体得していけることが多いと思いますので、個人的には、養成の問題については楽観的な見通しを持っています。

 最後になりますが、スクールロイヤーとオンブズでは、何が同じで何が違うのか。いずれも子どもの最善の利益のために活動するという点では同じですが、どこが違っているのか。オンブズは、子どもにより近い存在として、直接的に子どもの声を聴き、その声を大切にすることを徹底します。子ども自身が、相談員の助けを借りながら自分を見つめなおし、たどり着いた本当の願いや悩みなどを学校などの関係機関に(可能な限り子ども自身の言葉で直接)届けます。そして、保護者との間でも、親子面談などの機会を通じ、改めて子ども自身が保護者に本当の思いを伝えられるようになることを目指します。このように、子どもの声を軸にすることで、周囲の大人が同じ方向を向いて子どもの最善の利益を図れるようにすることがオンブズの役割と醍醐味です。可能な限り子どもの意見表明と参加を支え促すという意味で、権利基盤的なアプローチだといえます。

 スクールロイヤー及びスクールソーシャルワークは、アセスメントとプランニングを通じて子どものニーズを探求し、そのニーズに寄り添って学校、教育委員会にアドバイスをします。しかし、そこでは必ずしも子どもの意見表明と参加の権利が保障されているとはいえません。ともすると、これらの活動では、子どもを分析の対象としてのみ捉えてしまう嫌いが生じ得ます。上記したオンブズにおける権利基盤的なアプローチは、こうした対象化の弊害を回避し補填するものとして、スクールロイヤー及びスクールソーシャルワークの実践においても大いに参考となるものだと思います。

執筆:オンブズパーソン 三木 憲明(みき のりあき)

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