子どもオンブズ・コラム 令和6年9月号 夏の自由研究「アノマロカリス」

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ページ番号1020194  更新日 令和6年9月2日 印刷 

夏の自由研究「アノマロカリス」

イラスト
中村相談員のイラスト

 夏休みに入ると、オンブズに相談をしている子どもの面談で、夏休みの宿題が話題になることがあります。夏休みの前半に宿題をすべて終わらせて後半に遊びまくる計画、宿題を均等に割って毎日コツコツ進める計画、まずは夏休みを満喫してギリギリから宿題に取り組もうとする計画など、子どもによって夏休みの宿題についての計画はさまざまです。夏休みの宿題の中でも、算数や漢字などのドリル形式のものは計画通りにいくことが多いのですが、やっかいなのが自由研究です。子どもたちもテーマ選びで悩んでいることが多く、僕自身も小学生時代に自由研究に手こずっていた記憶があります。当時の自由研究として調べ学習を行ったテーマで覚えているのが「アノマロカリス」です。

 アノマロカリスは、約5億年前の古生代カンブリア紀の海に生息したとされる、すでに絶滅した生物です。アノマロカリスという名前は「奇妙なエビ」という意味で、飛び出した複眼に円形の口と長い触手、流線型の体の側面にはいくつものヒレがあり、広げた扇子のような形をした尾をもっている、現存する生物で言うとエビに近い見た目であったことに由来しています。その何とも形容しがたい見た目になぜか惹かれたのと、さらには体長が約1mで円形の口に放射状に重なり合う32枚の歯を用いて固い三葉虫などをガブガブ食べる「スーパー捕食者(注)」という異名に惹かれ、自由研究のテーマにしました。アノマロカリスのイラストを掲載しておきますが、形態や生態をさらに知りたい方はぜひ調べてみてください。
(注)その後の研究で、アノマロカリスの口の構造を分析すると、今のエビの殻ですら噛み砕くことができないことが判明し、水中の柔らかい生き物を食べていたのではないかという新説が発表されています。

 当時の自分を思い出しながらあらためて思うのは「ほんまにそのテーマがしたかったん?置きにいった自由研究のテーマやなぁ。」ということです。もちろんアノマロカリスに興味をもっていたのは間違いありませんし、無理矢理に自由研究のテーマとして捻り出したわけでもありません。ただ、当時の僕はバスケも好きだったし、ゲームもアニメも好きだったし、アノマロカリスの他にも自分が熱中していたものがもっとあったはずなのに、その中でもアノマロカリスを自由研究のテーマに選んだところに、今となっては少しモヤモヤする、面白みのないような感じをもってしまうのです。当時の僕はきっと、バスケやゲーム、アニメをテーマにするよりも、歴史や生物と関連しそうなアノマロカリスをテーマにした方が“学校的な”自由研究になると思ったのでしょう。その背景には、自由研究が、あくまで夏休みの宿題として学校から課され、完成したものを学校に提出して先生に評価されるものであるという理解があったのだと思います。

 もちろん学校の宿題である以上、先生に評価されることは当然なのかもしれません。ただ、夏休みの宿題の中でも、自由研究は子どもの自主性でテーマを選んだり、主体的に取り組んだりするところに、他のドリル等とは違った特長があるはずです。「自由研究」とネットで調べてみると、テーマの一覧が載った特集サイトがたくさん出てきて、自由研究のテーマを自由に選べるようになっていたり、なかには『自由研究の悩みを解決!』というキャッチコピーのついたサイトもあったりします。くわえて、保護者に向けて子どもの自由研究を補助する際のアドバイスが載ったサイトもあり、やはり自由研究のテーマ選びは、子どもだけでなくおとなも含め多くの人が手こずるのだなと感じました。それと同時に、これだけ多くの人が悩むということは自由研究のテーマはやっぱり「自由」ではないのだなとも感じます。なぜなら、本当に自由であれば、いま自分が熱中していることや好きなことをテーマにすればいいだけで、テーマ選びに悩むことは少ないでしょう。「自由」とはいうもののあくまでも“学校的な”という制約があることが、自由研究のテーマを選びを手こずらせるひとつの要因になっているんだと思います。

 そもそも、各学年で学習する単元や時間割、給食の献立等、いろんなことがあらかじめ決められている学校で過ごしている子どもが、自由に何かを決めたり取り組んだりする機会がほとんどない中で、急に自由研究のテーマを「自由に決めていいよ」と言われても悩むのは当然かもしれません。一方で、学校の先生たちも、必ず“学校的な”テーマにしなければならないと伝えているわけではありません。その結果、自由であるといわれつつも、最終的には子どもやおとなが自ずと“学校的な”発想に吸い込まれていくのだと思います。やることがあらかじめ決められたドリルを中心とした“学校的な”夏休みの宿題の中で、あえて自由研究という決まりのない自主性を大切にした宿題があるのだし、どんなテーマでも研究になるはずです。夏休みの自由研究で「アノマロカリス」をテーマにした当時の自分を思い出しながら、せっかくなら“学校的な”発想を越え、自身の自由な発想で自由研究に取り組んでもよかったのにな、と今の僕は考えます。

 執筆:相談員 中村誠吾(せいくん)

アノマロカリスのイラスト  絵は中村相談員
アノマロカリスのイラスト(絵 : 相談員 中村誠吾)

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