子どもオンブズ・コラム平成31年1月号 演習林実習

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ページ番号1008049  更新日 平成31年1月25日 印刷 

演習林実習

イラスト
生田専門員のイラスト

 川端康成の小説、『雪国』の冒頭、「国境の長いトンネルを抜けると雪国であった」ではないが、私が山陰の故郷を訪ねて行くには岡山と鳥取の県境にある人形峠を越えなければなりません。トンネルを出たところの山裾に、母校の農業高校演習林の標柱が建っており、周辺の山々はみごとなカラマツ・杉の成木が広がっております。
 帰省で人形峠を越えるとき、1957年頃の高校生時代の秋、野山の中で過ごした演習林実習での植林作業の記憶が、トンネルを出たところの標柱を見るたびによみがえってきます。

 かやぶき屋根の民家を改造した山すその宿舎で、一週間、炊事当番など役割分担のなか、人形峠の周りの学校の演習林での植林の実習でした。40センチメートルぐらいのカラマツ・杉の苗木の束を背負い山道を何回も往復しながら斜面にての植林作業を行い、林業についての実学の場でありました、とてもきつい実習でした。この植林作業は山の斜面を登るだけでも体力を消耗し、一本一本の苗木を植林しておりましたが、植林したこの山の数十年後はどんな山並みになっているのだろうかと想像しつつ過ごしていた高校生時代のこの実習はわたくしの忘れえぬ思い出でもあります。

 いま人形峠の山並みは、すでに十数メートルのカラマツ林・杉林に成長し立派な森林になっています。山々の緑を見たとき、その背景に一本の木々の成長をうながすための、枝打ち、間伐の作業、適切な下刈りなどがあることが思い起こされます。こうした手入れをすることにより太陽の恵みを多く受けさせながら、長い年月をかけて樹木は成長していきます。この作業は長年にわたり、今でも母校では教育の一環である演習林実習としてカリキュラム化されています。
 森林にかかわり続け木々が大木に成長していく過程を学びながら、森林にて自然の営みを肌で体験し、自然の神秘に畏敬の念さえ覚える場でもあります。
 山、本来の役割を果たせるため、結果的に森林保全や環境保全活動につながっています。よく成長し、管理もしやすい杉などが戦後大量に植林されましたが、近年になっては杉花粉などによる影響で花粉症に悩まされている人が多いとか、またこれらを伐採していく動きもあります。まさか昭和30年代には想像もしていなかったことです。

 私の高校時代、この大自然の中での演習林での体験を含め、その後も自然相手の教育活動の多い農業高校から農学部への進学、そして社会人として理科教員として教育現場で子どもたちと接することになりましたが、自分にとって、十代後半のこれらの体験は、以後の私には大きな影響を与えたと、今となっては思っております。
 現役をおえた現在でも、野山に出かけ子どもたちとの自然観察会に出かければ、心の故郷に帰った気持ちになっている今日この頃です。
 振り返れば、現役最後の職場にて、前任校長さんとの引き継ぎ書の中にあった卒業式の式辞を拝見したその中の一文に、次のような自作の詩が記されており感動しました。

『野辺に咲くスミレに目をやってごらん スミレの一途な姿に感動し 思わず 手をさし のべたくなるだろう そんな 人としてのぬくもりを 大切にしていこうよ』 
『それに 世相はあいかわらず あわただしい それだけに 「お-い雲よ どこに行くの」と 雲に話しかける そんな心のゆとりをもったらどうなの』
『人間が いばりかえることは止めにしようよ 人間だってまわりの存在によって 生かされているんじゃないか』

 自然とともに生きる美しさをかたりかけるようにかなでてくれた詩のささやきが、心の琴線にふれ、しずしずとひびき、とても共感しました。
 学校教育の現場での主役は、一人ひとりの子どもです。子どもの深層に目を向け「わかりたい」「できるようになりたい」「みとめてほしい」「わかってほしい」を大切にし、あらゆる子どもが主役になりえる工夫をし支援をし、活動に活力と自らの人生を切り開いていく力をみなぎらせたいとねがっております。

執筆:専門員・生田收(いくたおさむ)

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