子どもオンブズ・コラム平成29年11月号 世界が広がる、かもしれない

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ページ番号1001671  更新日 平成30年3月8日 印刷 

世界が広がる、かもしれない

船越愛絵の似顔絵
似顔絵 船越相談員

 以前にも何回か、このコラムで話したことがありますが、わたしには好きなものがたくさんあります。細かい手作業などはけっこう好きで(得意かといわれると、そうではないのですが)、ついつい時間を忘れて没頭してしまいます。でも反面、苦手だな、と思うものもそれなりにたくさんあります。たとえば、にぎやかな場所。それから、大ぜいのひとの前で話をすること、などなど。できればさけたいな、とは思うけれど、でも、嫌いかときかれると、そうでもないのです。にぎやかな場所で、うまくなじんで楽しそうにしているひとをみると、いいなぁ、と思う。大ぜいのひとの前で堂々と話しているひとをみると、格好いいなぁ、と思う。苦手というよりは、自分でもできたらいいんだろうなとは思うけど、わたしには合わないとわかっているもの、という方が正しいのかもしれません。
 おとなになるまでに、いろんなひとやいろんなことと関わることで、視野が広がっていったところもあります。ただ、一方で、自分を知っていくにつれて、これはわたしに合う、これは合わない、と考えがかたまっていってしまう部分もあるような気がします。

 ついこの前、ある旅番組をみました。番組のコンセプトは、「その国にちょっとだけ住んでみる」。これまで関わりのなかった、世代も職業もまったく違うふたりが、異国でアパートを借りて約1週間共同生活をする、というシリーズものの番組です。出演するのは、俳優、料理研究家、アーティスト、スポーツ選手など、さまざまな分野で活躍しているひとたち。「ちょっとだけ住んでみる」国も、フランス、アメリカ、キューバ、台湾などなど、いろんな国があります。旅番組ではあるのですが、お互い見ず知らずのふたりが、勝手のよくわからない国で四苦八苦しながら関係をむすんでいく、そのことがわたしにとってはとても興味深いものでした。
 わたしがみたのは、マレーシア編。参加したふたりは、浜田陽子さんと、チョーヒカルさんです。浜田さんは豪華な料理を簡単に作るレシピで人気の料理研究家。フードコーディネートの会社を経営していて、これまでほとんど休みなく働いてきたとのこと。チョーさんは広告業界等で活躍する若手アーティスト。学生のころから作品を発表し、海外でも高く評価されているそうです。ふたりはひとまわり以上も年が離れていて、初対面。どんな共同生活になるのか、見ているこちらもハラハラします。
 いよいよ初対面、というとき、先にアパートに到着していたチョーさんは、なんと、後からきた浜田さんを見つけてものかげに隠れてしまいます。それを見た浜田さんは戸惑いつつ名刺交換をするなど、お互いぎこちないまま、生活がスタート。こんな始まりなので、浜田さんは、挙動の怪しいチョーさんと一緒に生活してたら、自分がストレスを感じてしまうのではと不安になります。一方のチョーさんも、いきなり名刺交換なんて堅苦しい始まり方に、戸惑います。しかも、浜田さんは部屋に入るなり日本からもってきた調理器具や調味料をたくさん並べて、キッチンを占領してしまいます。それをみて、ちょっと怖いひとだなとひいてしまうのです。
 順調とはいえないすべり出し、しかもお互いの印象もあまりよくありません。それでもなんとかこの共同生活を成り立たせないといけない、と一緒に暮らすうえでのルールを話し合います。そのルールのひとつが、「運動をする」ということ。アパートにジムがあるので、せっかくだからそこを使ってみようということになったのです。ところが、なんとチョーさんは普段運動をまったくしません。一方の浜田さんは、よく運動するし、ジムにも通っています。チョーさんは浜田さんに遠慮するかたちで、しぶしぶジムに行くことになりました。
 いざジムに行く日、まずふたりはランニングマシーンに向かいます。浜田さんは慣れたもので、いつものペースで走り出します。ところがチョーさんは加減がわからず、浜田さんに張り合ってちょっと速いペースで走り出して最後はへとへとになってしまいます。でも、そのあとふたりでプールに飛び込んだとき、チョーさんはとても楽しそうでした。チョーさんは運動する気持ちよさを、初めて実感したのでした。
 実はチョーさんは、運動をすることそれ自体はもちろん、浜田さんのように「ジムに通うひと」のことも苦手でした。そういうひとを見ると、自分ががんばっていないことを責められているように感じるのだそうです。でも、浜田さんと関わって、やってみると意外にできること、楽しいことに気づいていくなかで、いつしか浜田さんとも打ち解けていきました。
 その後も、チョーさんは普段まったく家事をしないけれど、浜田さんの見よう見まねで、自分でも一品作ってみたりします。チョーさんが作ったのはシンプルな野菜のマリネですが、味は浜田さんいわく、「おいしかったですね、彼女の気持ちが」。浜田さんのほうも、絵を描くチョーさんをみて、自分でも絵を描いてみます。できあがったのはトラの絵、のはずだけど、チョーさんは大爆笑。お互いにちょっとだけ手をさし出す、その不器用さが、わたしにはとても印象的でした。

 自分のことは、自分がいちばんよくわかっている。それはもちろん、そのとおりだと思います。ひとは、うまくいったことやいかなかったこと、いろいろなことを経験していくなかで、自分はこういう人間だ、とわかっていくものです。合わないな、と思うひとやものは、上手にさけるのも一つの方法。自分にとって「合うもの」を、自分のなかでしんしん深めていくことも、それはそれで、とてもすてきだと思います。でも、関わってみると意外と気の合うひと、やってみると意外にできることも、実はたくさんあるんじゃないか、と思うのです。
 自分ひとりだと、まず「やってみる」「関わってみる」ことにさえたどり着かないことも。それはやっぱり不安だし、怖いし、なかなか高い壁です。でも、だれかに背中を押してもらえたら、ほんのちょっと、一歩ふみだしてみることができるかもしれない。そうすることで、広がる世界もあるような気がします。

執筆 相談員・船越愛絵(まなてぃ)


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