子ども・オンブズコラム平成25年12月20日号

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ページ番号1001714  更新日 平成30年3月8日 印刷 

「自分を受け入れてくれる存在」

平野相談員の似顔絵
  似顔絵:平野相談員

 私は映画を観ることが好きで、なかでも好きなのが子どもを中心に描いた映画です。このジャンルの中でも好きな映画はたくさんあるのですが、今回ここで紹介したいのは『おばあちゃんの家』(2002年:イ・ジョンヒャン監督)という韓国の映画。サンウという7歳くらいの少年のことを描いたもので、とても素敵なお話です。

 ソウルの都会で母親と二人で暮らすサンウは、母親が仕事を探すあいだ、田舎のおばあちゃんの家でひと夏を過ごすことになります。初めて会うおばあちゃんは、生まれつき耳が悪くて話すこともできないし、文字の読み書きもできません。都会の暮らししか経験したことのないサンウにとって、田舎でのおばあちゃんとの二人の生活は不満だらけ。持って来たゲームもすぐに電池切れになって、その電池すら田舎では手に入りません。それで思うようにならない苛立ちを、サンウはおばあちゃんにぶつけます。部屋の壁に落書きをしたり、おばあちゃんの作ってくれたごはんを拒んでソウルからもってきた缶詰ばかりを食べたり、一つしかないおばあちゃんの靴を隠したり……。でも、そんなサンウをおばあちゃんは叱りません。ことばはなくても、サンウの願いを叶えようと一心に努力します。ある日、ソウルから持ってきた缶詰がなくなって、何も食べようとしないサンウをおばあちゃんは不安そうに見つめます。そこで「ケンタッキーフライドチキンが食べたい」とサンウが言うと、それがどんなものかは分からないけれども、サンウの身振り手振りから察して、雨の中を遠くの市場まで出かけて行ってニワトリを求め、それをまるごと煮て出すおばあちゃん。出てきたチキンがケンタッキーじゃないとだだをこねて食べないサンウ。そんなやりとりがいくつも繰り返されて……それでも時間とともに少しずつ二人の距離は縮まります。
 雨の中ニワトリを買ってきた次の日、風邪をひいて寝込んでしまったおばあちゃんをサンウは看病します。一人暮らしのおばあちゃんには他に誰も世話をする人はいないのです。こうしてサンウが少しずつ心を開き、おばあちゃんへの愛情が生まれてきたとき、夏休みももう終わりに近づいていました。そしてお母さんから迎えに行くという手紙が届いて、二人に別れがやってきます。興味深いのはそのときのサンウの気持ちです。
 あんなに嫌だったはずのおばあちゃんとの暮らしがとうとう終わるという前夜、これからも山の中の一軒家でたった一人生きていかなければならないおばあちゃんのことを思って、サンウは泣いてしまいます。おばあちゃんを一人残してソウルに戻らなければならない辛さ、これまでおばあちゃんにいっぱい嫌なことをしてきたことへの後ろめたさ、そしていまさら照れくさくておばあちゃんへの思いを素直に語れない恥じらい、そうした気持ちがないまぜになって、サンウは最後になんとも言えない顔で、またもとの一人暮らしに戻るおばあちゃんを気遣いながら別れます。
 この映画を観た人は、おばあちゃんにわがままの限りを尽くすサンウに苛立ちを感じると思います。私も観ていて、「ここまでしなくても」とハラハラするような場面がたくさんありました。でも少し角度をかえて、サンウの立場になって考えてみると、みえる景色が違ってきます。母親の都合で、突然会ったこともないおばあちゃんの家に連れてこられ、言葉も通じず、いままでとまったく違う不自由な生活を送らなくてはならないうえに、頼りの母親がいなくて心細い思いで日々を過ごさなければならなくなったのです。そうした状況を考えれば、サンウがなかなか素直になれなかったことも無理はありません。そんななかでサンウは自分の不満をおばあちゃんに思いっきりぶつけたのです。サンウの姿を見ながら、私のなかにも、サンウぐらいの年だった頃、無理なわがままを言ってまわりを困らせたほろ苦い思い出がいくつも浮かんできました。思い起こしてみれば、そのときの私自身もまた、厳しく叱られるより、むしろ優しく見守られるほうがぐっと胸にこたえたように思います。

 子ども時代のそんな経験は誰にもあるのではないでしょうか。もちろん、子どもだからといってやってはいけないこと、許されないことはあります。けれど、たとえ自分がどんなことをやろうとも、また自分がどんな人間であろうとも、その自分を丸ごと受け入れてくれる関係が周囲にあってこそ、子どもは正直になれたり、人に優しくなれたりするものです。人は自分の存在をしっかり受け入れてもらえる場所があってはじめて、他者を尊重したり受け入れたりできるのだと思います。サンウのわがままにただ従っているだけのように見えるおばあちゃんは、一見弱く、子どもの言いなりになっているようでいて、実はそれによって子ども自身のもつ強さを引き出しているのではないでしょうか。映画に出てくるこのおばあちゃんのようにはなかなかなれませんが、私も子どもとの日々の出会いのなかで、そうした関わりを大切にしていきたいと思います。

執筆:相談員・平野裕子
     


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