子どもオンブズ・コラム令和6年8月号 少し視点を変えると見えてくること
ページ番号1020103 更新日 令和6年8月2日 印刷
少し視点を変えると見えてくること

最近、面白い本を読みました。『動物のひみつ』(夏目大訳、ダイヤモンド社、2024年)という本です。作者はイギリス出身で、現在はオーストラリアにあるシドニー大学で動物行動学の教授をしているアシュリー・ウォードさん。たまたま電車の乗り換え時間に余裕があって、入った駅の構内の書店で見つけた本でした。『動物のひみつ』というタイトルから、どんな「ひみつ」が書かれているのかなと思い、手に取ってみました。本の中身は、ナンキョクオキアミやシロアリといった小さな生き物から、ゾウやクジラのような大きな生き物、そして類人猿のような人間に近いとされている生き物まで、たくさんの生き物が登場し、その動物たちの生態を紹介しながら、いかにすべての生き物が「社会性」をもち、社会的営みを行いながら生活しているかということを、具体的なエピソードや実験をまじえて紹介しています。「社会性」は人間固有の特徴のように言われることが多いのですが、実は生き物はみんな社会的だというのです。
例えば、コウモリは夜行性で、夜の間に飛び回り、眠っている哺乳類たちの血を吸うそうですが、眠っている哺乳類は無防備なので、森のなかにいる野生のシカや、村の家畜、不用心な人間も標的になるそうです。ここだけ聞くと、なんて怖いんだろうと思いますが、コウモリはコウモリで生存のために食事は必要なことです。そうして満腹になるとすみかに戻るのですが、すべてのコウモリがつねにその日の食事にありつけるとは限りません。コウモリの数からすれば餌食になる哺乳類の数は圧倒的に少なく、哺乳類の側もコウモリを警戒しているのです。しかし、コウモリは、三夜連続で食事に失敗すると、餓死してしまうのだそうで、驚いたことに、同じねぐらを共有する仲間のなかに、食事ができなかったものがいると、満腹のコウモリが、自分の飲んだ血の一部を吐き戻して空腹のコウモリに与えるのだそうです。別の日には立場が逆転することもあり、こうやって助け合って生きているのです。
このように、多くの動物が、協力し合って生きている。その社会性のもっとも基礎的なものは「社会的緩衝作用」と呼ばれ、「ただ同種の動物のそばにいて関わりあうことだけで確実に生じる利益」のことを言うそうです。集団で過ごすだけで、集団によって支えられる。人間がそうであると言われれば、簡単に納得できますが、じつは、これがすべての生き物に共通する特徴だそうで、言われてみれば当たり前のようにも感じますが、あらためてそう言われれば、妙に納得した気分になります。
もう一つ印象に残ったエピソードに、チンパンジーの話がありました。ロシアの心理学者のナディア・コーツさんは自宅で「ジョニ」という名前のチンパンジーを育てていたそうです。コーツさんは、ジョニが時々、人の入ることのできない家の屋根裏部屋へ逃げ込むのに困り、戻って来させるためにジョニの好きな食べ物を使っておびき出そうとしました。犬や猫ならこの方法でおびき出せるのですが、上手くいきません。そこで、コーツさんは泣き真似をしたのだそうです。すると、ジョニは急いで屋根裏部屋から降りてきて、彼女を慰めてくれたのです。チンパンジーは進化的に人間に一番近いとされており、ジョニの行動はチンパンジーとしてはごく普通に見られることで、チンパンジーは、そばにいる他者が何を求めているのか、敏感に察知できるのです。不思議なことですが、これが生き物としてのチンパンジーの特性なんですね。人間ばかりが偉そうにはできません。 こうやって動物の面白い行動を読みながら、人間のことを考えると、人間が社会的であるのは、ごく当然の生き物としての特徴なのだと感じます。もともと生き物として集団で生きていくことが予定されているのです。
けれど、一方で、その集団のなかでしんどくなって、生きづらさを感じてしまうこともあります。人間が過ごす家族や学校や職場という集団は、自分から選べるようでいて、実際は自由に選んだり、変えたりすることができません。それは動物も同じです。この本でも、危機的な状況になると仲間に襲いかかるバッタの話や、物を壊したことを怒られるのが嫌で、同居している猫のせいにしようとする動物園のゴリラの話も出てきます。
ネガティブなことも含めて、それが生き物の社会性であり、人間も他者との関わりのなかでしか生きていけないものです。ただ、この現実を、すべて生き物としての大きな流れの一つだと、大局的に見られる時ばかりではありません。他者との関係で行き違い、傷ついてしまえば、なにからどう一歩を進めればよいのかわからなくなるもの。そんなとき、この本に見るように、少し視点を変えてみたり、整理したりすることができれば、状況がちょっと違って見えてくることがあるかもしれません。
執筆:チーフ相談員 平野 裕子(ひらりん)
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