子どもオンブズ・コラム令和4年12月号 「心の中に住む気持ち」に耳を傾けて

このページの情報をツイッターでツイートできます
このページの情報をフェイスブックでシェアできます
このページの情報をラインでシェアできます

ページ番号1016465  更新日 令和4年12月26日 印刷 

「心の中に住む気持ち」に耳を傾けて

北村相談員イラスト
北村相談員のイラスト

 「読んで。」と、夜寝る前に孫娘が持ってくる数冊の絵本の中にこの一冊の本がたびたび入っている。“In My Heart(私の心の中に)” というタイトルの英語の絵本である。2歳半の孫は日本語で絵本を読んでやってもどこまで内容を理解しているのか分からないので、書かれている原文のまま読んでやる。孫は描かれている絵や色彩、読んでいるこちらの声やそのトーンを、そして何よりも自分のために読んでもらっているという状況を楽しんでいるふうである。

 この本を買ったのは、2019年8月、シドニー郊外の町で日曜日に開かれていたフリーマーケットだった。教会の中庭で開かれていて、花や野菜、子どもが大きくなって使わなくなったおもちゃや古着、手作りのアクセサリーやお菓子、一見するとガラクタのような物など様々なものがテントの下で売られていた。そこで私が探すのは絵本だった。きれいに使われていて、ちょっと印象に残るような挿絵の本を探す。絵やイラスト、そして色彩に心ひかれるものが私のお気に入りとなる。このようにして買い集めた本の中にこの“In My Heart”という絵本がある。この本の表紙の絵はカラフルでとても可愛らしい。本のタイトルを表すように大きなハートが真ん中に切り抜かれていて、その切り抜かれたハートは最後のページになるほど小さくなっていく。しかし、そのハートの縁はページごとに違う色になっているので、表から見るとカラフルに幾重にも縁どられたハートに見える。本の中の絵は、真っ白な背景に単純な線で描かれたイラストが基本になっていて、部分的に鮮やかな色が塗られている。

 このように絵本の表紙に惹かれて買ったので、孫にせがまれて読んで初めて、内容を詳しく知ることになった。
  “My heart is full of feelings. Big feelings and small feelings. Loud feelings and quiet feelings.  Quick feelings and slow feelings. My heart is like a house, with all these feelings living inside.(私の心は色々な気持ちでいっぱい。広い心、狭い心。落ち着かない気持ち、ゆったりとした気持ち。怒りっぽい気分、のんびりした気分。私の心はこんな気持ちが住んでいる家みたいなもの。)” で始まるこの本は、特にストーリーがあるわけではない。各見開きに1つずつ、「私(主人公は女の子)」の心の中に生まれる「気持ち」が “happy(うれしい)” “brave(勇ましい)” “mad(頭にくる)” “calm(ゆったり)” “broken(がっくり)” “sad(悲しい)” “hopeful(わくわくする)” “afraid(いやだ、こわい)” “silly(浮かれて)” “shy(はずかしい)”の順にイラストとともに紹介されている。 “sad(悲しい)”のページを引用してみると“Some days my heart feels as heavy as an elephant.  There’s a dark cloud over my head, and tears fall like rain.  This is when my heart is sad. (私の心が象のように重たいときがある。頭の上に黒い雲があって、涙が雨のように落ちてくる。こんな時は私の心が悲しい時。)”
 しかし、その次のページは“But my heart doesn’t stay sad.  Like springtime after winter, the sun comes out again.  My heart grows tall, like a plant reaching toward the sky.  This is when my heart is hopeful.(でも、私の心は悲しいままじゃない。冬が終わって春がやって来るように、太陽がまた顔を出してくる。草木が空に向かって伸びるように、私の心も伸びあがってくる。こんな時は私の心はわくわくしている。)”と続く。

 人の気持ちや感情には、ポジティブに捉えられるものとネガティブに捉えられるものがあるのだろう。しかし、悲しみや苛立ちなどネガティブと捉えられがちな感情についても、絵本に登場する「私」はその感情に寄り添い、パニックになることもなければ、これらの気持ちを否定することもしない。しかし、次のページには悲しみの中から立ち直っていく「私」がいる。うれしいとか楽しいという気持ちだけでなく、悲しいとかいやだという気持ちも自分の心の中にある大切な感情なのだと言っているような気がする。どのような気持ちを抱えた「私」であっても、それがあるがままの自分であることを認めて受け入れ、逞しく生きている。自分の気持ちを正直に認めてその気持ちを大切に思うことができれば、自分が置かれている状況を冷静に判断することができるだろう。特に辛く苦しい時やくじけてしまった時、その気持ちを認め、そんな気持ちを抱えている自分を大切に思うことができれば、どうすればその状況から抜け出だして前に進むことができるのだろうかと考える力になるのではないだろうか。

 この孫がもう少し言葉を理解できるようになったら、日本語訳をつけて読んでやろうと思う。この本から彼女が何を感じ、何を読み取り、何を学ぶのかわからない。記憶に残ることもないかもしれない。しかし、どのような感情であれ自分の心の中に生まれる気持ちは大切なのだと知ってほしい。これから、様々な思いを経験しながら成長するなかで、その時その時の自分の気持ちを受け入れて客観的に自分が置かれている状況を見ることができるようになれたらよいと思う。そして、苦しい状況に置かれても、そこから次の一歩を踏み出す力をつけてくれることを願っている。子どもの人権オンブズパーソンの相談員として子どもの気持ちを聞く仕事をしている今、日本から遠く離れた地でたまたま出会ったこの本を特別な思いで読んでいる。

出典:"In My Heart"  Written by Jo Witek  Illustrated by Christine Roussey  Published by ABRAMS BOOKS in 2014 

執筆:相談員 北村 寿江子(きたちゃん)

より良いウェブサイトにするために、ページのご感想をお聞かせください。

質問1:このページは分かりやすかったですか?
質問2:質問1で(2)(3)と回答されたかたは、理由をお聞かせください。(複数回答可)


 (注)個人情報・返信を要する内容は記入しないでください。
所管課への問い合わせについては下の「このページに関するお問い合わせ」へ。

このページに関するお問い合わせ

子どもの人権オンブズパーソン事務局

〒666-8501 川西市中央町12番1号 市役所5階
電話:072-740-1235 ファクス:072-740-1233
子どもの人権オンブズパーソン事務局へのお問い合わせは専用フォームをご利用ください。