子どもオンブズ・コラム 令和7年11月号 知らない人が繋がる特別な瞬間
ページ番号1023341 更新日 令和7年11月14日 印刷
知らない人が繋がる特別な瞬間
先日、久しぶりに、パソコンを買い替える機会がありました。 かつて、パソコンの買い替えといえば、引き継ぎたいデータを一つひとつ選んで自分で移行させる必要があったため、「面倒だな」と身構えていたのですが、今回は終わってみれば全くの杞憂でした。今は、アカウントを使って同期させれば、普段使っている環境が新しいパソコンでも簡単に再現されるのです。 新しいパソコンでも最初から気楽に使えるようになったことに、「便利になったなぁ」と思うと同時に、「現実もこんなに簡単なら楽なのかな」と思わずにはいられませんでした。
私たちは新しい環境へ移る時、ゼロから人と繋がる必要があります。習い事を始めたり、SNSで同じ趣味の友達を探したりといった、自分から新しい繋がりを作ろうとすることもあれば、引っ越しや進学といった事情で、これまでの繋がりをごっそり無くしてしまうこともあります。時に繋りを作る挑戦が大成功になることもあれば、頑張っても上手くいかないこともある、運も絡む大仕事です。
実際、オンブズで仕事をしていると、「新しい環境が合わなくてしんどい」「どうやって馴染めばいいのかわからない」といった子どもの悩みを聞くことがあります。そういった日常の困りごとでモヤモヤしている子どもの気持ちを聞いて、子ども自身が解決するのをアシストするのがオンブズの役割です。その一方で、私はもう一つの現実があることも感じています。それは「相談できる場所があること」と「そこへ繋がること」は必ずしも同じではないということです。
孤独や不安を抱えている人ほど、気力を失いがちです。私が受けた相談でも、「最初の電話はなかなか勇気が出なかった」「うまく話せなかったらと思うと相談に来るのが怖かった」という声は少なくありません。オンブズという初めての場所で、自分の困りごとを一から話すのは、それ自体が新しい繋がりを作る行為で、既に人との繋がりに悩む子どもにとっては難しい挑戦に感じられるかもしれません。
だとしたら、子どもにとっては、パソコンのデータ移行のように「自分がどういう性格か」「これまでどういうことがあったのか」を相談前からある程度知っていて説明を省くことができる相手に相談するほうが、ずっと楽なのかなと考えることもあります。
ただ、オンブズが普段から大事にしていることの一つに、「秘密は守るよ」という約束があります。これは、「相談してくれたことは、許可無くオンブズのほかの誰にも言わないよ」という約束なのですが、同時に「あなたのことを勝手に他の人に聞いたりして調べないよ」という約束でもあります。
たとえば、相談の場で子どもが泣いたり怒ったり、誰かを責めたり、普段周囲の人に見せていないような姿を見せても、私はその子どもの普段の姿を知らないので「あなたらしくない」といった判断はしません。今の自分の状況を苦しいと思う子どもほど、「今の自分」を忘れて話せる場が必要だと思います。「全く知らない相手だからこそ話せることもある」、そう考えてオンブズの相談員は子どもと関わっています。
更にもう一つ、知らない人同士だからこその「ちょっとしたサプライズ」もあります。
相談の際に、子どもは私が全く知らないことを口にしたり、意外な姿を見せることがあります。たとえば、雑談の途中に突然思い出したように「実はこういう趣味があるんだ」「こういうことが得意なんだ」といったことを教えてくれて、「え、詳しく教えてよ」「うわ、すごいなぁ」と私がびっくりすると、子どもはよく、少し得意そうな顔を見せます。そして、その話題について話してくれる時は、とても楽しそうで自信に満ちた表情になって、聞いているこちらまで元気になります。
これはきっと、子どものことを詳しく知らないし、普段の役割を求めない相手との間だからこそ起きる、お互いが元気になる瞬間なのだと思います。
そう考えると、何も知らない人同士の繋がりは大変さもある一方で、だからこそ得られる特別な経験もあるのだと思います。私自身も、特に最初の相談の際は「この子のことを何も知らないけれど大丈夫かな」と思うことがありますが、知らない人同士だからこそできることを大事にしたいと思います。
執筆 相談員 井口 由紀子
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