子どもオンブズ・コラム平成28年6月号 灯を消す勇気

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ページ番号1001686  更新日 平成30年3月9日 印刷 

灯を消す勇気

吉川オンブズの似顔絵
似顔絵:吉川オンブズパーソン

 3月に行われましたオンブズの2015年次報告会では、2015年の活動報告に加えまして、「いま、『不登校』から見えてくる子どもたちのSOS」というテーマでシンポジウムをもちました。また、先月のオンブズコラムでは、浜田オンブズも「なかなかシブイじゃない」というタイトルで「不登校」について触れています。2カ月連続で「不登校」についてのコラムになりますが、親御さんの視点について考えてみたいと思い、書かせていただきます。
 なお、「不登校」という表現は、「学校に行っていない」という状態を指すと一般的に言われていますので、それを前提にします。

 「不登校」の背景や原因は、きわめて多様で、複合的であることが多いとされています。中には、「学校には絶対行かない」と考えているお子さんや、児童虐待が背景にあって学校に行くに行けないお子さんもいるでしょうが、浜田代表オンブズも言っているとおり、学校に行けるのであれば行きたいけれども、「なんとなく行きたくない」、「学校へ行くのは気が重い」というお子さんが多いと思われます。
 こうした場合、ほとんどの親御さんは、日々不安を感じながら、「できれば学校に行ってほしい」と願っていることでしょう。では、親として子どもにどう接したらいいかとなると、それはとても難しく、正解はないのかもしれません。
 
 ここからは私事になりますが、日本で箱庭療法を普及させ、臨床心理学者の第一人者であった故河合隼雄京大教授の本を、ここ数年、よく読んでいます。その中に、親御さんの接し方としてヒントになりそうな文章が二つありましたので、紹介させていただきます。
 ひとつは「灯を消す方がよく見えることがある」というタイトルの文章です。
 あらすじは、『何人かで漁船で海釣りに出かけ、夢中になっているうちに、みるみる夕闇が迫り暗くなってしまった。あわてて帰ろうとしたが、混乱してしまって、方角がわからなくなり、必死になって灯をかかげて方角を知ろうとするが見当がつかない。そのうち、一人が灯を消せと言う。不思議に思いつつ消してしまうと、あたりは真の闇である。しかし、目がだんだんとなれてくると、まったくの闇と思っていたのに、遠くの方に浜の町の明りがぼうーと明るく見えてきた。そこで帰るべき方角がわかり無事に帰ってきた。
 子どもが登校しなくなる。親が心配して相談に行くと、「過保護はいけない」と言われた。そこで、世話をするのをやめると、余計に悪くなってくる気がする。他の人に相談すると、「甘えが大切だ」と言われ、甘えさせたが、うまくいかない。』というものですが、これに対して、河合隼雄さんはこう言っています(以下は、原文のままです)。
 『「過保護はいけない」、「甘えさせることが大切」などの考えは、それはそれなりに一理があって、間違いだなどとは言えない。しかし、それは目先を照らしている灯のようなもので、その人にとって大切なことは、そのような目先の解決を焦って、灯をあちらこちらとかかげて見るのではなく、一度それを消して、闇の中で落ちついて目をこらすことである。そうすると闇と思っていたなかに、ぼうーと光が見えてくるように、自分の心の深みから、本当に自分の子どもが望んでいるのは、どのようなことなのか、いったい、子どもを愛するということはどんなことなのか、がだんだんとわかってくる。そうなってくると、解決への方向は見えてくるのである。』(「こころの処方箋」から)

 もうひとつは、「中心をはずさず、ずっとそばにいる」というタイトルの文章です(以下は、原文からの引用です)。
 『中心というのは、自分の中心でもあるし、相手の中心とも言える。体の中心、心の中心としても捉えられる。・・・中心からはずれないでいるのが難しいということは、つまり、いかに我々が中心からはずれやすいかということです。たとえば、(あの人を自分のちからで助けてあげよう)なんて思ったら、もうちょっと中心からはずれている。(あ、この人は、こんな相談までして、私をここまで信頼してくれてるな)という思い方も、自分が嬉しくなってしまっている分だけはずれ。そして、この「中心からはずれたな」という感じのほうは、案外自分でもわかるんですね。・・・だから、「ここぞという時、逃げない」という言い方で「中心をはずさない」ということを言いあらわすことができると思います。・・・相手をしっかりみる、相手のことをしっかりと聞くという態度は、そのまま自分の内部にあるものをしっかりみる、しっかり聞くということに結びついてきます。自分もそれで鍛えられるんです。』(「こころの天気図」から)

 以上の二つの文章がすべての場面で当てはまるというものではないでしょうし、家庭の中だけで解決するものでもないでしょうが、子どもを見守るという観点から何かしらご参考になればと思い、紹介いたしました。
 学校に行きたくても行きにくいと感じているお子さんは、おそらく一人になった時など、頭の中でいろんなことに思いを巡らせている、あるいは、自問自答を繰り返しているんだろうと思います。そして、そうした中で、成長していくはずです。また、時には、充電の時間が必要なのかもしれません。

 河合隼雄さんの言葉には、不登校の問題のみならず、子どもとの関係性、さらには、対人関係において信頼関係を築いていく上で重要なことが述べられているような気がします。

執筆:オンブズパーソン・吉川 法生(きっかわのりお)
 


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