子どもオンブズ・コラム令和8年8月号 「弱いロボット」
ページ番号1024993 更新日 令和8年8月10日 印刷
「弱いロボット」
みなさん、「弱いロボット」って、知っていますか。初めて聞くと、えっ⁉ 「弱いロボット」ってどういうこと? どんなロボットのことなんだろう? と思われるかもしれません。私もそうでした。
「ロボット」と言えば、戦隊もののヒーローが乗り込んで敵と戦うとか、ポケットからすごい道具を取り出して困っていることを解決してくれるとか、そんなファンタジーやSFの世界を思い浮かべるかもしれませんし、今では、人間が活動できない場所で複雑な作業をしたり、AIのように人間に代わって作業を素早くやってくれるロボットを思い浮かべる人も多いかもしれません。こんなふうに、「ロボット」と聞くと、どちらかというと、人間よりはるかに強そうだったり、人間にできないようなことが何でもできてしまう、そんなイメージをもっている人が多いのではないかと思います。けれど、今回紹介する「弱いロボット」は、ロボット研究者の岡田美智男さんが開発・研究されているもので、簡単に言うと、誰かの助けがないと何もできない、不完全で不完結なロボットです。(注)参照
岡田さんが作られた「弱いロボット」のなかに、〈ゴミ箱ロボット〉というロボットがいます。このネーミングを聞くと、公園や公共施設で、自らゴミを発見し、どんどん集めてその場所をきれいにするロボットをイメージするかもしれません。けれど、この〈ゴミ箱ロボット〉は、ゴミ箱ではあるものの自分でゴミを拾う機能をもっていないのです。自分でゴミを拾うのではなく、ゴミのそばをウロウロして、自分に入れて欲しそうに、少し前かがみの姿勢を取る。それを繰り返すだけで、ゴミそのものは拾えません。ところが、その様子を見た人が、「ゴミを拾ってほしいんだな」と思って、ゴミを拾って入れてくれる。そうすると、〈ゴミ箱ロボット〉は軽く腰を曲げるような動作をして、まるで「ありがとう」と言っているかのような仕草をするのだそうです。つまり、この〈ゴミ箱ロボット〉自体は、ゴミを拾えないけれど、そばにいる人にゴミを拾うという行動を促して、結果的にゴミを集めることができる。そういうロボットなのです。
この〈ゴミ箱ロボット〉を開発する過程で、まだ試作中のロボットを広場におき、そこで遊んでいた子ども達がこのロボットに対してどのような振る舞いをするのか観察したのだそうです。すると、子ども達は不思議そうにのぞき込んだり、持ち上げてみたり、思い思いにこの不思議なロボットに関わり始める。しばらくすると、一緒に歩いたり、ぶつかりそうな物をのけてあげたりと、小さな子どもの面倒を見るかのように〈ゴミ箱ロボット〉の世話をしはじめる。そのときの子どもの表情が、どこか晴れやかでおとなびていると言うんですね。そうして一人の子どもが、ちょっとしたいたずらのつもりでか、手にしていた紙袋をゴミ箱に投げ入れるという瞬間があり、その振る舞いにロボットのセンサーが反応して上体を軽くかがめたのです。このことをきっかけに、他の子ども達も一緒になって、あたりからゴミを探してくれるようになった。そこから〈ゴミ箱ロボット〉は誕生したのだそうです。
「ひとりでできるもん!」と強がるのもいいけれど、自らの弱いところをそのまま周囲に見せて、まわりにそっと委ねてみる、これもまた非常に大事なこと。そんなことを〈ゴミ箱ロボット〉がさりげなく教えてくれたと、岡田さんは書いておられます。他のロボットのように、自分の中にいろんな機能を備えて自己完結するのではなく、周りに半ば委ねつつ、支えてもらう。それでもって物事を成し遂げる。それを『関係論的な行為方略』と呼ぶのだそうで、この考え方から生まれたのが「弱いロボット」です。この「弱いロボット」の不完全で不完結な部分は、人との関わりの中で相手の強みや優しさを引き出し、結果的に物事を成し遂げてしまう。そうした方略なのです。
そもそも人間は根源的に不完全な生き物です。例えば、歩くという行為も、片足をあげたとき、その不安定な状態で、次に足を下ろす地面を信じ、地面に身体を委ねる、それによってはじめてしなやかな動きが生まれる。私たちは、日頃、何でも自分でできるようになることがいいことだと思いがちです。子どもの成長においても、一人でできることを増やすことが大切だと考え、ついついその方向で促すことが多いように思います。けれど、弱さやできなさを人にさらけ出すことで、相手の強みを引き出したり、お互いが助けあえる関係性が生み出されるのも大事なこと。「弱さ」が「強さ」に変わる。そんな発想が人どうしの関係にも自然と生まれるといいなと、私は思います。
執筆:チーフ相談員 平野 裕子(ひらりん)
(注)参考文献:岡田美智男〈弱いロボット〉から考える 人・社会・生きること 2024年 岩波ジュニア新書
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