子どもオンブズ・コラム令和2年3月号 退職のあいさつ

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ページ番号1010430  更新日 令和2年3月24日 印刷 

退職のあいさつ

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    船越相談員のイラスト

 今年に入ってから、予備校時代の友人と約10年ぶりに会う機会がありました。この間、まったくといってよいほど連絡をとっていなかったので、ほんとうに10年ぶりの再会でした。改札で待ち合わせた彼女は、あのころしていなかったお化粧をして、仕事帰りの重たそうなカバンを持って、ぜんぜん知らないひとのようでした。けれども、わたしを見つけて笑った顔や手のふり方には、たしかにあのころの面影が残っていました。
 はじめは少しぎこちなさもありましたが、お互いの近況や共通の友人のことなどを話すうちに、気づけば3時間以上が経っていました。思えば、予備校時代は彼女も含めて仲良くしていた数人で集まることはあっても、2人きりで食事をしたり話したりすることはありませんでした。こんな風に彼女とお互いの悩みや進路について深く話す日がくるなんて、あのころには思いもしませんでした。わたしはあのころ聞きたくても聞けなかったこと(そして今でも少しもやもやしていること)を、思いきって彼女に聞いてみました。彼女の答えは、「え? わたしそんなん言った?」。それなりに勇気を出して(そしてお酒の力も借りて)聞いたのに……。そしてそのあと、彼女も「あのときさぁ」と、わたしについての思い出を話しました。でも、今度はわたしの方がまるで記憶にありません。お互いに顔を見合わせて笑い合い、不思議とすっきりとした気分になりました。ひとは、だれかの中に自分では思いがけないかたちで残っていることがある。そしてそれは年月を経て、違うかたちで結びつくこともある。そんな風にしみじみと感じた夜でした。

 2014年にオンブズの相談員となってから6年、出会ったひとりひとりの顔が思い浮かびます。自分がいったい何に困っているのか、それを一緒に探すところから相談を始めたこと。しんどさに気づいてしまうとよりいっそうしんどくなる、そんな状況の中で何とか日々を過ごしている子に出会ったこと。簡単にはうまくいかないことも多くて、わたし自身も子どもたちと一緒に悩む日々でした。けれども、傷つきながらも相手に向き合おうとする姿。うまくはないけれど、自分の言葉で相手に思いを伝えようとする姿。子どもたちの中にあるひととつながろうとする力に、わたしの方が励まされることが、何度もありました。
 いま、だれかとの関わりの中で困ったり、悩んだりしていることがあっても、いつかはそれが違うかたちで結びつくことがあるかもしれない。そんな風に、ひとともう一度つながることを信じられる社会であるよう、わたし自身もひとりのおとなとして、できることを考えていきたいと思います。

 最後に、この6年間、関わらせていただいたすべての方々、お世話になった関係者の方々に、この場をお借りしてお礼を申しあげます。ほんとうにありがとうございました。

執筆:相談員・船越愛絵(まなてぃ)

退職のあいさつ

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  今井相談員のイラスト

 相談員になってすぐ、最初に驚いたことがあります。オンブズにやってきた子どもが、次回の面談の日程を自分で決めて、相談員と約束をしていることでした。(相談員)「次、いつにする?」、(子ども)「1週間後、かな」、(相談員)「OK。カレンダーとかメモに書いて忘れないようにね」、(子ども)「書いた。また来週!」。自分の困りごとの相談の日を自分で決める、相談員と約束をする――これらは、当たり前のことに思われるかもしれませんが、わたしにとってちょっとした驚きでした。
 オンブズでの2年間をふりかえると、子ども中心の解決をサポートするとはどういうことかを、模索し実践する日々でした。さまざまな関係性のなかで傷つき、つまずいた経験をもつ子どもからじっくり話を聞かせてもらい、「そうか、こういうことだったのか」と、はじめて子どもの世界に少し近づけたように思えました。「これがつらかった」「こうしたい」「これやってみるわ」と、子どもの気持ちや意思、いろいろなアイデアが、子ども自身の口から出てきたとき、子どもの中の「ちから」を感じ、勇気や元気をもらいました。
 一方、わたしが勘違いしていたこともあります。子ども中心の解決をサポートするおとなは子どもに寄り添って、ただそこに「いる」のではないということです。「こういう時、なんて返せばよいのかな」「この選択をしたら次にどんなことが起こるのだろう」「他にいい方法はないか」「わたしの“よい”と思う価値観は本当に“よい”のだろうか」「学校や社会はどうあればいいのか」など、おとなのわたしは動揺したり、頭をひねったり、悩んだり。結局、わたし自身が問われているのだと思うようになりました。
 オンブズでは週1回の研究協議にメンバーみんながそろい、さまざまな角度からケースを検討し議論します。子どもからの相談を受け、子どもの世界とおとなの世界がどうあればいいかをともに考えるのは、「当事者研究」に似ているなと思うことがあります。当事者研究は、自分の苦労を大切なこととして考え、「苦労の主人公」となって、仲間と一緒に苦労の経験を分かち合い、自分らしい生き方を模索していく活動です。北海道浦河市にある精神障害などを抱えた当事者の地域活動拠点「べてるの家」での取り組みが有名です。その活動理念の一つに「自分自身で、ともに」というものがあり、わたしは気に入っています。オンブズの活動も、子どもが自分の困りごとの主役になって、自分自身で、そしておとなチームとともに解決に向けて考えて実践します。「自分自身で、ともに」取り組もうとする子どもたちに出会えたこと、その仲間に入れてもらえたことは、わたしにとってとても貴重な経験でした。
 ひるがえって、社会には子どもたちが日常的に悩みごとや困りごとを相談できて、一緒に考えてくれるおとなが少ないのかもしれません。おとなにそうしたことのできる余裕が、気持ち的にも時間的にも制度的にも整っていないように思います。おとなの世界をどう変えていけるのか、子どもの「ちから」が引き出される場面をどう保障していくのか、オンブズでの経験を活かして今後も考えて続けていきたいと思っています。
 短い間でしたが、今までお世話になったみなさまにこの場を借りて感謝申し上げます。仲間に迎えいれてくださった子どものみなさん、おとなのみなさん、ありがとうございました。

執筆:相談員・今井貴代子(きよぽん)
 

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