子どもオンブズ・コラム平成30年8月号 希望を支える言葉

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ページ番号1007420  更新日 平成30年8月30日 印刷 

希望を支える言葉

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平野相談員のイラスト

 先日、『病院ラジオ』というテレビ番組を見ました。お笑いコンビのサンドウィッチマンが病院に出かけていき、中庭に2日間限定でテント張りのラジオ局を開設するというドキュメンタリー番組です。そこで、患者さんやその家族にインタビューをして、リクエストされた曲を流します。放送はインターネットラジオで流れるということで、病院内に配られた専用のスマホで聞けるようになっていて、それぞれの場でいろんな人が聞いています。特設とはいえラジオ局ですから、ちょっとした非日常の場で、病気のことや家族への思いなど、普段はなかなか言えない話も出てきます。大きな病院で、難しい病気を患っている入院患者さんも多いのです。
 そこにはいろんな人が出てきましたが、心に残ったのは、あるお母さんの話です。娘のYさんが生まれてすぐ、重い先天性の心臓病があるとわかって、この大きな専門病院にちょうど16年前にやってきました。入院していろいろな詳しい検査を受けた後、お医者さんからは、「手の施しようがなく、あるだけの命です」と言われます。お母さんは診察室でそのことを一人で聞いて、辛くて、辛くて、苦しかった。でも、日ごろから「この子に何かあったら僕はどうなるかわからない」と話していた夫に、「これは言えない」と思ったのだそうです。けれども、やはり一人では抱えきれず、病院からの帰りの車の助手席で泣いてしまいます。気づいた夫に、「こんなこと言われてしまった」とお医者さんの話を打ち明けると、夫は「僕、Yちゃんの結婚式、何歌おう」と言ったのだそうです。その言葉にびっくりして、絶望していた自分が、「先があるんだ、未来のことを見ていいんだ」と思えた瞬間だったと振り返ります。その子もいまは16歳。酸素ボンベをつけて学校に通いながら、もう立派に「娘さん」です。
 そのお母さんのリクエスト曲は、中島みゆきさんの『時代』でした。娘さんが生まれるまでは、この歌が好きで、よく聞いたりしていたそうですが、娘さんの病気がわかってから突然、聞くことも歌うこともできなくなったと言います。「そんな時代もあったねといつか話せる日がくるわ あんな時代もあったねときっと笑って話せるわ」という歌い出しに、そうして笑える日がもうこないのではないかと思って、聞くだけで苦しくなったのです。
 ところが、あんなに苦手だったこの曲なのに、娘さんの笑顔を見ているうちに、いつの間にか普通に口ずさむことができるようになって、そんな自分にびっくりしたと、涙交じりの笑顔で話していました。このお母さんの話を、別のところでお父さんと娘さんが聞いている。その様子がカメラに映し出されます。お父さんはハンカチで涙をぬぐい、娘さんは緊張した面持ちです。
 「僕、Yちゃんの結婚式、何歌おう」という、お父さんのあのときの、ちょっと突拍子もない言葉が、お母さんの胸に残り、その後のお母さんを支えてきたのです。目の前の絶望に押しつぶされそうになっていたとき、思いもよらないことを言われて、そこから新たな気持ちが動き出す。そういうことがあるんですね。
 こんな気の利いた一言は、言おうと思って言えるものではありません。お父さんも、余裕があって言えた一言ではないはずです。娘さんへの思いがあり、連れ合いであるお母さんへの思いがあり、そしてこれからの家族の暮らしへの思いがあって、不意に口をついて出た一言、その一言がお母さんの明日への希望を支えてきたのでしょう。
 言葉には力があります。そして、反対に何気ない一言で人を傷つけることもあります。自分の発した一言が、誰かの心に残っていく。私は、そっと誰かを支えられるような言葉を発することができているだろうか。言葉は人を大きく動かすもの。その言葉を大切に使いたいと、あらためて思った番組でした。

執筆:チーフ相談員・平野裕子(ひらりん)
 

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