子どもオンブズ・コラム 令和5年5月号 1年を経ての所感

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ページ番号1017987  更新日 令和5年6月13日 印刷 

1年を経ての所感

長瀬オンブズパーソン
長瀬オンブズパーソン イラスト

 オンブズパーソンに着任して1年が過ぎました。現在、感じていることを書きたいと思います。

 私が暮らす市には、子どものオンブズパーソン制度(子どもコミッショナー)はありません。日頃、いろいろな形で子どもへの不適切な状況を耳にします。その時に、オンブズパーソン制度があったなら、と思うことは少なくありません。直接働きかけても事態が変わらないことも多く、大元となる行政機関に働きかけようにも、責任あるポジションにいる人へのアクセスそのものが保障されていません。そうなると、子どもも保護者も、ただ、その状況を我慢する、あきらめるという方法しかとれなくなってしまいます。そのなかで、子どもの声は、ただ沈み込んでいきます。自分の周囲の状況と照らし合わせながら、日本社会全体の状況を見渡すと、子どもの自死や不登校、いじめの重篤案件といった子どもをめぐる状況の厳しさは実感をともなうものです。この状況を変えていくために、オンブズパーソン制度は必要とされていることをひしひしと感じます。

 ふだん、子どもの相談を受け付けた後、その相談内容について研究協議とよばれる週1回の会議で話し合います。相談を最初に受け付けた相談員、事務局、そしてそれぞれ専門性の異なるオンブズパーソン3名で一つひとつのケースについて、子ども自身の声、子どもの周囲にいる人たちの意見をもとにしながら、今何ができるかを考えていきます。それぞれのケースによって適用する国内法も、それにもとづいて展開される制度も、関係する実施機関も、いつ、どのタイミングで何をするべきかという点も異なります。私は、児童福祉の専門家ですが、すべての子どもの問題に精通しているわけではありません。その時々に応じて、その子どもと家族が生きる状況に関する学びをアップデートしながら考えることになります。

 情報を集めること、「子どもの意見」を聴き取るためのアイディアを出し合うこと、「子どもの最善の利益」とは何なのかを合意として見出すこと、具体的なアプローチの方法を検討すること…。毎回の研究協議は、全員が集中して考え、方向性を見出していきます。そして、その方向性を、子どもや家族、その関係機関に届け応答を待ちます。その後、さまざまな応答をうけて、必要な場合に再度アプローチの方法を考えるという繰り返しが複数回なされていきます。近年の相談は、複合的に問題が絡まり合って硬直している場合も少なくありません。子どもや保護者との長期的な関わり、複数の機関との継続的かつ複数回の関係調整が必要になっています。

 研究協議では、知識として抽象的に理解してきた子どもの権利の考え方を、具体的な子どもや家族がおかれている状況のなかでどう落とし込めばよいのか悩みます。子どもの意見表明、子どもの最善の利益、子どもの権利条約本文のみならず、その条文を詳しく解説した一般的意見(注)を読み返し、これらの理念はどのような要素で形作られるのか、どのような視座で目の前の子どもと家族をとらえればよいのかを考えさせられます。

 この一年、「子どもはどう感じているのか・考えているのか」といった子どもの意見表明に力点が置かれたあり方に学ぶことが多くありました。子どもの声は、おとなが「聴く」ことによって初めて表出されます。そして、そのおとなは誰でもいいわけではなく、子どもと直接利害がない第三者であることも重要です。相談にくる子どものなかには、自分の気持ちが分からなくなっていたり、自分の思いを出すこと自体あきらめていたり、周囲のおとなを信頼できなくなったりしている場合もあるからです。子どもとおとなとの時間をかけたやりとり(対話)のなかで、子どもの意見が形作られていくことも学びました。そして、子どもの意見を中心にしながら、それを支えるおとなの関係性の調整も、第三者であるからこそ担えることにも気づかされました。

 子どもの権利を保障するには、資源(人間関係・時間・お金)が欠かせません。どんなに子どもの権利条約の四つの原則(すべての子どもの命と育ちを大切に、一人ひとりの子どもに差をつくらず、子どもの意見を取り入れて、子どもにとって最もよいことを追求する)を実践しようとしても、それを実現する基盤がなければ難しいのです。川西市が資源を投入してつくられた子どもの人権オンブズパーソン制度があることで、硬直した状態にある子どもと家族に少しずつ変化がもたらされることを感じてきました。制度があるということにより、子どもと家族の生活と人生が良い方向へと向かうことを思うと、やはり、すべての市町に、そして日本社会に子どものオンブズパーソン制度(子どもコミッショナー)が必要であると思うのです。

 本来、子どもにかかわるどのような場面においても、子どもの声は聴き取られ、それを含めて子どもにとって最も良いことを考える必要があると考えています。でも、現実は、そうはなっていません。すべての子どもにかかわる場所で、子どもの権利条約の四つの原則にもとづくようなあり方が必要とされているのではないでしょうか。  川西市での実践のなかで試行錯誤しながら、引き続き学び、考え、行動していきたいと思います。

(注)一般的意見とは…
 国連子どもの権利委員会が、条約の規定に関して解説したもの。子どもの権利にかかわる権威のある解釈であり、法的拘束力はないものの、子どもの権利条約を批准した国においては尊重する必要があると考えられている。


執筆:代表オンブズパーソン 長瀬 正子(ながせ まさこ)

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