子どもオンブズ・コラム令和元年8月号 はげしくぶつかって、でも

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ページ番号1009232  更新日 令和1年8月26日 印刷 

はげしくぶつかって、でも

イラスト
平野相談員のイラスト

 先日、すごい場面を目撃しました。週末にスーパーに買い物に出かけたときのことです。週末のスーパーは、夕方の買い物客であふれています。私は店内を一回りして買いたいものをかごに入れ、レジのところに並びました。
 レジもすごく混んでいて、どの列も7人、8人、一番後ろの人は陳列棚の間まで並んでいます。私も仕方なく、その列の一つに並びました。そうして順番を待っていると、隣の列に小学校1年生ぐらいの男の子とお母さんの2人連れがやってきました。男の子はお母さんに何やら話しかけています。最初は小さい声だったのですが、少しずつ声が大きくなってきました。男の子はお母さんに、しきりに「何か買って!」「何か買って!」と訴えています。お母さんは、「買わないよ」と返します。男の子はそれでもあきらめません。お母さんが「何か買ってっておかしいでしょ。欲しいものもないのに、無理して買う必要はないの」と淡々と返します。それでも、男の子は納得しません。ますます大きな声で「何か買って!」と言いだしました。お母さんが折れそうにないのを見て、男の子はいまにも泣き出しそうな声を上げて叫びます。
 「じゃあ、ドラえもんのチョコ買って!」
 「じゃあって、欲しくもないのに、何か買うために買うなんておかしいでしょ」
 「欲しいもん。買ってよ。買ってよ。取ってくるからね」
 「取ってきたって買いません」
 男の子はお母さんの言葉を振り切って、おやつコーナーに走っていき、帰ってきた男の子の手にはドラえもんのカップに入ったチョコが握りしめられていました。それをかごに入れようとする男の子にお母さんは言います。
 「買いませんって言ってるでしょ。買わないよ」
 「買って。これ欲しいから。これ買ってよ」
 お母さんが聞き入れてくれないのに腹をたてた男の子は、持っていたドラえもんのチョコを買い物かごに放り込みました。それに対してもお母さんは冷静です。
 「そんな風に入れたって、ママが買わないってお店の人に言ったら、買えないんだから」
 「もう!なんで買わないの。買って、買って、買えよ!」
 最後は怒鳴り声です。そちらを見ないようにしていた私も、ハラハラしてきました。これはどうなってしまうんだろう?それでも揺るがないお母さんに、今度は「お願いします。買ってください」と言ってみたり、もう男の子は必死でした。レジがとても混んでいたこともあって、並んでいたお客さんは、みんな見ないふりはしているけど、全員に聞こえています。それぐらい大きな声だったのです。
 とうとうその親子がレジをしてもらう順番になりました。お母さんは店員さんに買い物かごを渡すと同時に、さっき入れられたドラえもんのチョコをすっと手に取り、店員さんに「これいりません」と言って渡しました。あまりの手際のよさに私がびっくりしていると、男の子は「もー!買って!買って!」とさらに激しく泣き出しました。レジの店員さんも、この親子の様子をずっと気にしていたのでしょう。お母さんに渡されると、男の子に見えないようにドラえもんのチョコを後ろのカゴにいれました。男の子は泣き叫び続けましたが、レジは終わり、袋詰めの台の方に移動するころには、男の子も少しずつ落ち着いてきたように見えました。
 それにしても、このお母さんはすごい。あんなふうに大勢の前で子どもに大きな声を出してねだられても、ブレずに淡々と返すなんて。私にはできそうにありません。もちろんお母さんは怒っていたけれど、冷静なスタンスを崩しませんでした。周りに人がいたから努めて冷静を装っていたのかもしれませんが、それでも大変です。そして、男の子もまったくブレることなく、「何か買ってほしい」という思いを、全力で押し通そうとしていました。これも相当のものです。
 この二人がふだんどんな親子関係を生きているのかは、もちろん、わかりませんが、自分の思いが相手から受け入れてもらえないことは、誰にだって日常のなかにいくらでもあります。そんなときなんとか折り合いをつけて自分の気持ちをおさめる、これはなかなか難しいことです。大勢の人の面前でこれだけのやりとりをするのは、お母さんにも男の子にも大変なことだったと思うのですが、うまくいかない生身の経験を重ねるなかでしか身につかないこともあります。できれば、人とぶつかりたくないし、争いたくない。でも、そうやってうまくいかない経験を繰り返すことで、たがいの気持ちを大事にしながら一緒に生きていくかたちがようやく見えてくるもの。そんなことを思いながら、二人がスーパーを出ていく後ろ姿を見送りました。

執筆:相談員・平野裕子(ひらりん)

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