子どもオンブズ・コラム平成30年11月号 コンプレックスがふっと軽くなる瞬間

このページの情報をツイッターでツイートできます
このページの情報をフェイスブックでシェアできます
このページの情報をラインでシェアできます

ページ番号1007825  更新日 平成30年11月20日 印刷 

コンプレックスがふっと軽くなる瞬間

イラスト
今井相談員のイラスト

 先日テレビを見ていると、世界を舞台にモデルを目指す女の子たちのオーディション番組がありました。女の子たちは、それぞれにメイクを工夫し、流行や季節を意識した服を着て、自信たっぷりに歩いて審査員にアピールをしていました。審査員は、元モデル、有名なヘアメイクアーティストなどで、厳しいまなざしで女の子たちを見ています。ある女の子の番になったとき、審査員が質問を投げかけました。「工夫したポイントはどこですか」。女の子は答えました。「だんご鼻が気になるので、それを隠すようにメイクしました」。すかさず審査員は言います。「コンプレックスを隠すのはモデルとしてNG。コンプレックスは活かしなさい」。だんご鼻が少しでも高く見えるようにメイクを工夫していた女の子は、審査員の厳しい言葉を聞いて、感情を抑えることができずその場で泣き出してしまいました。
 テレビを見ていた私はびっくりしました。なぜなら、気になるところをよく見せようと工夫したことは、審査員から誉められることだと思ったからです。そうではなく、コンプレックスを隠すなと厳しく言われるのですから、私もテレビを見ていて泣いてしまいそうになりました。コンプレックスは誰にでもあると思います。周りから否定されそうで怖いし、自分でも向き合うのはとてもしんどい、ましてや隠すのではなく強みにすることなど、とても難しいことのように思えます。コンプレックスに向き合うのは難しい。そう思いながら、私も自分のことを振り返っていました。
 小さい頃から私はコンプレックスがたくさんありました。その一つに体に関することがあります。体が大きく、骨太で、体重も重く、中でも肩幅が広いことをとても気にしていました。肩幅が広いために服がきつくて入らず、自分に合うサイズの服をなかなか見つけることができませんでした。到底おしゃれなど興味がわくはずもありません。肩幅を少しでも小さく見せようと、肩を狭めていたのでどんどん猫背になっていきました。肩幅の小さい子がうらやましいけれど、そのことを口にすることもできず、肩幅の悩みは誰にも言えない私だけの秘密でした。その程度の悩み、と思う人がいるかもしれませんが、悩んでいる当人にとっては切実で深刻な問題です。
 おとなになったある日、この悩みがふっと軽くなる出来事がありました。私はさまざまに悩みをもつ子どもたちの集まりにスタッフとして参加していました。そこに来ていたある高校生が私に言ったのです。「肩幅、広くていいな!」。こんな風にためらいもなく肩幅のことを言われるのは初めてで、穴があったら入りたいほど恥ずかしくなりました。「めっちゃコンプレックスなんやけど!」と、私は素直に自分の悩みを口にしました。その高校生は肩幅が広くなりたいと思っていたようで驚いていました。この出来事をきっかけに、私は肩幅が広い悩みを口にでき、人に言えるようになると、不思議なことに肩の広さを隠そうとしなくなりました。20代も半ばを過ぎた頃のことです。スタッフとして参加していた私(しかも、いいおとな!)が、逆に高校生に励まされたのです。今思えば、その集まりが悩みを素直に言い合える、子どもたちにとっての安心できる場だったことは大きいです。おとなの私にとっても安心できる場だったのかもしれません。
 コンプレックスを誰にも言えずにいると、ますます悪い方に考えてしまいがちです。でも、同じような悩みをもっている人の前や、ここでなら口にしても大丈夫かもしれないと思える場では、ふとした瞬間に出てしまっていることがあります。本当は誰かに話を聴いてほしいと思っているのかもしれません。コンプレックスを隠すのではなくそのままの自分として受け入れるのは、ひとりでは難しい。でも誰かに知ってもらえたら、そのままの姿でいいよと言ってもらえたら、コンプレックスはふっと軽くなる。そうしたことがあるように思うのです。
 テレビ番組には続きがあります。審査員に厳しい意見をもらったモデル志望の女の子が、メイクアップアーティストの人からだんご鼻を隠さないメイクを教わります。「この方が断然かわいい。これがあなたの強み」と審査員は言い、今度はやさしいまなざしで女の子を見つめていました。まだ涙目でしたが、女の子の顔がさっきまでとは違う清々しい表情になったのがとても印象的でした。

執筆:相談員・今井貴代子(きよぽん)

より良いウェブサイトにするために、ページのご感想をお聞かせください。

質問1:このページは分かりやすかったですか?
質問2:質問1で(2)(3)と回答されたかたは、理由をお聞かせください。(複数回答可)


 (注)個人情報・返信を要する内容は記入しないでください。
所管課への問い合わせについては下の「このページに関するお問い合わせ」へ。

このページに関するお問い合わせ

子どもの人権オンブズパーソン事務局

〒666-8501 川西市中央町12番1号 市役所5階
電話:072-740-1235 ファクス:072-740-1233
子どもの人権オンブズパーソン事務局へのお問い合わせは専用フォームをご利用ください。