子どもオンブズ・コラム平成28年12月号 「意見」を言うということ

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ページ番号1001680  更新日 平成30年9月5日 印刷 

「意見」を言うということ

船越相談員の似顔絵
似顔絵:船越相談員

 自分の意見を言う。
 文字にするとたったこれだけですが、実際はそんなに簡単でもないものです(「意見」は時には「気もち」だったり、「思い」だったりするかもしれない)。いつだってはっきり自分の意見を言える、というひともいるのだろうけど、すくなくともわたしにとっては、ずっと苦手意識のあることでした。どのタイミングで言えばいいんだろう? なんて思っているうちにぜんぜん違う話題になってしまったり、そもそも自分の意見って的はずれじゃないかな? と不安になったり、どうやったら受け入れてもらえる? と思い悩んだり。結局は言えずじまいになることも、たくさんありました。もちろん、いつも自分の意見をはっきり言うことばかりが、「よいこと」であるわけではないのですが。
 そんなとき、わたしはなかば無意識に、自分にいいわけをしていました。あのひとの言うことがきっと正しいんだから、わたしの意見は言わないほうがいい。別にだれかに分かってもらえなくてもいいんだし。みんなだってそんなにわたしの意見に期待していない。言ったら空気を悪くしてたはず、きっと。などなど(まだまだ、いいわけは山のように出てきますが、ここではこのくらいにしておきます)。
 でも、いいわけをする、ということは、ほんとうはそうではない、と分かっているということ。じゃあ、ほんとうってなんだろう? ほんとうはどうしたい?

 何年か前、あるひとのエッセイを読みました。何で読んだのかも、内容もおぼろげなのですが、おそらくこんなエピソードだったように思います。
 そのひとはコミュニティセンターでカフェをしていました。ある日、カフェで出すために、新しいケーキの試作をしました。そして、お菓子づくりがうまいことでメンバーのなかでは一目置かれているひとに、試作したケーキを食べてもらったのです。するとそのひとは、「すこしパサパサしている」と言いました。いつもなら、あのひとがそう言うんなら仕方ないか、だってあのひとはお菓子づくりがうまいんだから、と思って引き下がっていました。そうして心の中では、自分にはこのケーキのよさが分かっているからいい、と呟いていたと。でもこのときは、以前そのひとのケーキを食べて、自分にとってはしっとりしすぎているように感じたことを思い出したのです。そして、あなたの意見はそうだけど、わたしの意見はそうではない、と伝えたのでした。
 相手の意見にすべてを譲るのではなく、1つの意見として受け止め、自分の意見を伝え返すことができたこと。いつもは自分だけが分かっていればいい、と思っていたけれど、それをはじめて相手に返したことで、相手としっかり同じ土俵に立てたこと。「土俵際でふんばった」という表現だけは、とてもくっきり覚えています。
 もしかすると、あいまいな記憶なので、細かいところは違っているかもしれません。でも今、わたしの中には、こんなふうに記憶され、ずっと心に残っています。

 「意見」は自分の胸のなかにあるだけなら、ただのひとりごとでいられる。だれかに、何かにぶつかって、傷つくこともない。分かられなくていい、自分だけが価値を知っていればいい。そう思うことがあるのはたしかです。すべてをひとに見せる必要はありません。でも、「意見」の根っこをずうっとたどっていったとき、ほんとうは、「分かってほしい」思いがあるときも。
 自分の内がわにあるもの、それを知ってほしい、分かってほしい、と思ったとき、そこにはいくつも壁が現れます。
 受けとめてもらえるだろうか?
 的を外していないだろうか?
 言いたいことがきちんとそのまま伝わるだろうか?
 どれもとても怖いし、壁の内がわにいればすくなくとも安全。だけど、それでも、分かってほしい。分かりたい。そうやって生まれる「意見」を、それを口にする勇気を、わたしはとてもすごいもの(もっとすてきに表現できればいいのですが)だと思います。そうしてはじめて「意見」が空気にふれ、お互いの「意見」がぶつかりあう。傷つくこともあるけど、そうすることで新しい形が生まれることもある。それは、自分のなかにあるだけでは、生まれなかったものです。

 はじめて自分の内がわをひとに見せたとき、わたしはとても怖かった。今でも苦手なことに変わりはないけど、でもすこしずつ、大丈夫、と思えるようになってきました。それは、わたしの「意見」をしっかり聞いてくれるひとがいたから。どんなに的はずれでも、小さいことでも、ちゃんと聞いて「意見」を返してくれるひとがいたから。
 たくさんの壁を乗り越えてうまれた「意見」を、まずはしっかり、受けとめてくれる。そんなひとがあなたの周りにたくさんいてほしい、と思うし、わたし自身もそうありたい、と思うのです。

執筆:相談員・船越 愛絵(まなてぃ)

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